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■平成30年度下期「健康福祉委員会」行政視察報告(委員:平井 登)

■視察先:盛岡市/宇都宮市/君津市(2018.10.23〜25)報告者:平井 登
盛岡市の「子ども未来ステーション」内の様子

盛岡市の「子ども未来ステーション」内の様子

認定NPO法人「青少年の自立を支える会」理事長・星俊彦氏のお話を聴く

認定NPO法人「青少年の自立を支える会」理事長・星俊彦氏のお話を聴く

君津市の「乳児院はぐくみの杜・赤ちゃんの家」

君津市の「乳児院はぐくみの杜・赤ちゃんの家」

赤ちゃんの家・保育室を観察室より見る

赤ちゃんの家・保育室を観察室より見る

視察先1:岩手県盛岡市・子ども未来課
視察テーマ:子ども未来ステーション、子供若者育成支援計画について

@取組の経緯・内容
 盛岡市が、平成28年4月1日に開設した「子育て世代包括支援センター」と平成30年4月1日に開設した「子ども家庭総合支援センター」は、同市保健所1階の同じ室内に向き合うように設けられていて、この2つの支援センターを総称して、「子ども未来ステーション」と呼んでいる。
  「子育て世代包括支援センター」は、妊娠・出産・子育て期の対象者に切れ目ない支援体制を構築し、育児不安の軽減や安心して子育てができる環境を整備することを目的としている。一方の「子ども家庭総合支援センター」は、子育て世代包括支援センターと一体となり、面接や家庭訪問を通じて、さまざまな悩みを抱える子育て家庭に寄り添い、継続的な相談や必要な支援を行うことを目的としている。
 両支援センターの職員構成は、「子育て世代包括支援センター」では、保健師3名(正職員2名、非常勤職員1名)、助産婦1名(非常勤職員)、社会福祉士1名(非常勤職員)の5名で対応。「子ども家庭総合支援センター」では、子ども家庭支援員3名(正職員2名、非常勤職員1名、いずれも社会福祉士、児童福祉司の有資格者)、心理担当支援員1名(非常勤職員、認定心理士資格者)、虐待担当専門員2名(非常勤職員、教員資格者)である。
 両支援センターの相談件数について、「子育て世代包括支援センター」では、年間平均1,500件程度(H28.H29.H30の場合)で推移している。内容は、母乳やミルク、離乳食や食事、日常生活・しつけ、病気、発育・発達、預け先や利用できる制度等の相談である。
  「子ども家庭総合支援センター」は、相談の受付方法を来庁・電話・訪問の3つに分けているが、やはり電話による相談が圧倒的に多く、平成29年度の延べ件数の84.6%が電話相談である。また、同年と翌30年の4月から9月まで6ヶ月間の相談件数を比較すると2.3倍も増えている。この理由については、29年度までは、同市保健所4階にある「子ども青少年課」が受付窓口だったことと関係がありそうであり、30年度に設けられた1階の「子ども未来ステーション」内の「子ども家庭総合支援センター」での受付に切り替え、利用しやすくなったことが影響したようだ。
 相談内容は、児童虐待(身体的虐待、心理的虐待、ネグレクト)、虐待以外の養護相談、不登校、育児やしつけ等である。相談は、電話ばかりでなく、同センターでの面接相談や家庭訪問、学校、児童センター等へ出向いての面接相談も可能である。 また、保護者が病気や仕事等の理由で、家庭での養育が一時的に困難になった場合に、児童養護施設等で一定期間子どもを預かることも可能としていて、7日間程度までのショートステイ(平日昼間)とトワイライトステイ(平日夜間)、休日預かり(日曜日、祝日の昼間)がある。

 次に、同市が平成27年3月に策定された『子ども・若者育成支援計画』についてであるが、この計画は、近年の不登校、ひきこもり、ニート、発達障害、非行等、「子ども・若者」をめぐる社会問題が複雑化、深刻化する中、2010年4月に施行された国の『子ども・若者育成支援推進法』及び「子ども・若者ビジョン」と歩調を一にしている。
 内容は、教育、福祉、保健、医療、矯正、更生保護、雇用等の分野の壁を越えて、「子ども・若者」の健やかな育成と社会生活を円滑に営むことができるようにするため、多くの主体が互いに連携・協力し、「子ども・若者」一人ひとりに寄り添い、すべての「子ども・若者」が自立し、活躍できるまち“もりおか”を目指すための計画として策定されている。
 施策体系として、3つの基本目標〈@活躍支援、A自立支援、B環境整備〉とそれぞれの基本施策と成果指標、目標値を掲げたうえで進捗を管理されている。
 具体的取り組みとしては、@社会生活に困難を有する子ども・若者を支援する団体及び市民に対し、「もりおかユースレター」を年2回発行。A岩手県立大学との協働研究により、ひきこもりから回復した方にインタビューを実施し、ひきこもりから回復までのロールモデルの冊子を作成(「ひきこもっているあなたへ。先輩からのメッセージ」)。B民間団体との協働により、中高生が、働く大人と交流するイベントや自らの夢やビジネスプランを発表するプレゼンテーションの実施。等々である。

A 本市に反映できると思われる点、また、参考になった点
 
本市には、盛岡市の「こども未来ステーション」のように子育てや家庭生活等におけるさまざまな悩みや問題に対応するオールインワン的なワンストップ窓口は現在ない。所管する健康福祉部において、児童課、自立支援課、子ども家庭課等が個別に事業と施策を展開する中で、さまざまな課題や問題に対処し、またそれぞれの相談に対応する専門機関へ案内をしている。とりわけ本市の場合、「ふじえだ子育てガイドブック」(平成29年4月策定)に象徴されるように、メディア(ウエブサイト・印刷媒体・SNSなど)を活用した支援に大きな特色があるのではないかと思う。そこでは、目的別の支援制度や遊びの場、交流の場、相談窓口の案内等々、多彩な中身となっていて高く評価はできる。しかし、“悩み”、“障壁”というところまで深刻化している子育て世代にとっては、電話相談や面接相談、訪問相談などを連係させて包括的かつ専門的に対応する一本化された窓口の存在は大事であると感じた。さらに盛岡市では、市役所庁舎内ではなく保健所内に「子ども未来ステーション」を設置していることも、特に子育て女性の利用者には安心して行ける、気軽に利用できる秘訣になっているのではないかと思ったりもした。

視察先2:栃木県宇都宮市・認定NPO法人「青少年の自立を支える会」
視察テーマ:ネグレクト環境にある子供たちへの支援の取組について

@取組の経緯・内容
 
認定NPO法人「青少年の自立を支える会」は、平成8年に児童養護施設職員であった現理事長の星俊彦氏が、児童養護施設を退所したにもかかわらず、様々な事情で家庭に戻れない、行き場のない青少年に安心して過ごせる場所を提供しようと自立支援ホームの設立を決意されたことに始まる。同氏に共感する児童福祉関係者ら有志が集まり、設立準備会を組織、翌9年9月に自立援助ホーム「星の家」を開所している。
 平成11年には、NPO法人認証を取得し、さらに14年には国税庁より認定NPO法人に認証されている。これは栃木県では初、全国でも10番目という快挙である。この認定NPO法人の認証については、全国のNPO法人約50,000法人のうち、975団体(2018.2月現在)しか取得できないほどの難関がある。パブリック・サポート・テストという公益性の重視、つまり、一般市民に支持されている度合いが高く、収入額の20%以上が寄付金でなければならないなど、多くの市民や民間事業者等から支援される仕組みづくりと公開性・透明性を確保していることが必須の要件である。
 同会は、古民家等を利用した3つの居場所ホームを運営されている。一つは自立援助ホーム「星の家」(平成9年9月開設)。2つ目はファミリーホーム「はなの家」(平成26年1月開設)、3つ目が子どもの居場所「月の家」(同年7月開設)である。

●自立援助ホーム「星の家」
 中卒や高校中退で就職し、自立を強いられた児童養護施設の子どもらが、職や生活拠点を失った際のよりどころとなり、再スタートができるまでの間の生活支援を行っている。これまで130人を超える子どもの支援実績がある。近年は、児童養護施設経験者よりも虐待によって入所するケースが大半という。

●ファミリーホーム「はなの家」
 里親や児童養護施設において、養育実績のある人が、自宅で5〜6人の子どもを養育する事業で、現在は中学生以上の男子5名が生活している。

 ●子どもの居場所「月の家」
 国・県・市の補助モデル事業「要支援児童健全育成事業」によって開設されたものである。この施設は、養育がきちんとしていない家庭環境にある小中学生に対して、放課後の勉強や遊び、そして、食事、入浴等の生活援助を行う場であり、運営スタッフが学校に迎えに行き、援助後、家庭に送り届けるものである。

A 今後の課題
 「星の家」を設立して20年が経過。福祉関係者等の有志によって踏ん張られて来ておられるが、運営スタッフとなる後継者の育成が課題という。認定NPO法人として、広く市民から支持される公益性の高い運営をキープするには、寄付金を今以上に集め、スタッフそのものの生活を支えられる給与処遇が前提になると思うが、そのためには本事業への理解と寄付の周知をさらに図る必要があるようだ。

B 本市に反映できると思われる点、また、参考になった点
 本市には、「青少年の自立を支える会」と同様の取り組み事例はまだないという。しかし、入所対象者は少なからずあるともいう。星氏のような篤志がいない限り、実現は難しいのも確かであるが、国の支援制度を把握しながら、福祉関係者等に働きかけ、有志を組織化して行ければ、実現は可能と考える。

視察先3:千葉県君津市・児童養護施設「はぐくみの杜」
視察テーマ:「乳児院・はぐくみの杜赤ちゃんの家」の取組について

@取組の経緯・内容
  
「乳児院・はぐくみの杜赤ちゃんの家」は、社会福祉法人「生活クラブ」が、平成29年5月に君津市の郊外地に建設したものであるが、ここには同法人により平成25年に「児童養護施設・はぐくみの杜君津」が先行して建てられていて、同じ敷地内への増築となる。
 両施設とも新しく、一般戸建住宅と同じ佇まいで6棟設けられた児童養護施設には、2歳から18歳までの40人が6〜7人ずつ分かれて暮らしている。一方、昨年できたばかりの乳児院は、0歳から2歳の乳幼児を養育する施設に特化しており、安全性を重視した衛生的かつ機能的で温もり感ある空間にデザインされていた。
 定員は15人であるが本年10月現在13人が入所している。
 乳児院は、親の死亡や入院、経済的な事情などにより保護者の下で養育が難しいとされた乳児が入所する施設で、必要がある場合は満2歳まで養育を継続できるようになっている。その背景には近年増加している親の虐待があり、「はぐくみの杜赤ちゃんの家」においても、それが理由で入所する子どもが多いという。
 同所は、千葉県内7つの児童相談所から子どもを預かり、県からの委託を受け26人のスタッフで運営されている。開設から1年半を経過しているが、これまで2人の乳児が家庭に戻り、1人が里親のもとに行くため退所したという。
 同施設の中には、家族支援室、個別面会室、観察室も配置されているのが特徴的で、保護者や里親の訪問目的に対応していることが分かる。とりわけ、0歳、1歳、2歳と分割された養育室を観察室から一望に見られるようになっているのは、スタッフが必要に応じて速やかに動けると同時に乳児への安全対策上からも効果的だと感じた。

 児童養護施設と乳児院が同じ敷地内に一体化され運営されている「はぐくみの杜」は、施設長の高橋克己さんの念願が叶った形態という。その理由は、乳児院では2〜3歳以上になると措置変更といって、児童養護施設での養育に切り替わるため、幼児をこれまでそばで暮らしてきた人(施設スタッフ)と引き離さなければならなく、そのことが子どもに不安やショックを与えてしまうからで、スタッフにとっても大変辛い思いをしなければならなかったことにある。「はぐくみの杜」のように見慣れた環境、見慣れたスタッフの中で移行(措置変更)させることが理想という。

A 今後の課題
 養育を必要とする子どもの健やかな育成には、施設スタッフばかりでなく、地域の人たちとの交流や地域ボランティアの存在が不可欠である。児童養護施設においては、キャンプや運動会、餅つき大会といった地域主催のイベントを通じて児童とのつながりを深めているが、「乳児院・赤ちゃんの家」もその延長線上で、地域と関わる必要があるという。乳児は、感染症などへの抵抗力が弱く、多数の大人との接触は慎重にしなければならないが、しかし、地域の住民が同所に来て、一緒に食事をしたり、テレビを見たりするような夕食会を実現させ、一般家庭で普通にあるお客さんや親の友人が遊びに来るような家庭的雰囲気を作りたいと抱負を持たれていた。さまざまな事情で、乳児院に入所した子どもの健やかな成長のために、地域の理解と支援を得るしくみをどのように実現されて行くか注目したい。

B 本市に反映できると思われる点、また、参考になった点
 社会的養護を必要とする18歳以下の子どもの数は、全国で約45,000人おり、138箇所の乳児院と615箇所の児童養護施設があるという。(厚労省平成29年度調べ)
つまり、1つの自治体あたりに数十人の養護を必要とする子どもが存在することになる。本市には、児童養護施設、乳児院ともに現在は設置されておらず、本市における社会的養護を必要とする子どもの実態はどの程度なのか。
 これまで、子ども家庭課や児童相談所等へ寄せられた相談内容を精査する必要があり、それを踏まえて本市単独ではなく現在の広域的取り組みの中での課題・問題を整理・分析したうえで、再検討が求められてくると考える。
 仮に、施設の必要性が高いと判断された場合、今回視察した君津市のような児童養護施設と乳児院が一体化された、なおかつ、地域との交流が図れるような施設の設計が望ましいと感じた。